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多文化社会論

科目
多文化社会論
区分
国際言語文化学科科目群
授業コード
2106861068
開設セメスター
3S4S
曜日・時限
春 水/56秋 水/56
単位数
2単位
担当者名
池田 智
授業の概要
1980年代あたりから「多文化社会」という用語が盛んに使われてきている。
「多文化」を構築する要素としての「多民族・多人種共存・共生」とは非常に聞こえがいい。人間としての優しさがあるような気がする。こうした考えを支える思想として「多文化主義」とか「文化多元主義」が主張されるようになった。これらの用語は"multiculturalism"を日本語に置き換えたものだが、前者を"multiculturalism"の訳語として、後者を"cultural pluralism"の訳語として使い分けする学者もいる。
 こうした用語が使われるようになった背景には、1960年代あたりまでごく普通に受けとめられていた「同化主義/政策」(assimilationism)、すなわ一つの国内に存在する少数派を多数派の言語・文化へ吸収する政策や少数派に対する差別政策に対する批判と反差別運動があった。
 これは、「多文化共存・共生」が問われ、また少数派が顕在化するようになってからのことだ。しかし、早くはマーガレット・ミードら文化人類学者が、レイシズムや西洋文化を頂点として世界の他の文化を段階的に下位に位置づける「文化発展説などに対する批判として「文化相対主義」(cultural relativism)を提示していた。本講座では、「今、なぜ『多文化社会論』なのか?」を中心テーマとして、「多文化共存・共生」が主張されるようになった背景を探り、その支持思想としての「多文化主義/文化多元主義」が生み出すさまざまな問題を、避難所国家としてさまざまな民族・人種が共存・共生するアメリカの歴史と現状に見る。
到達目標
「多文化社会」と一般に呼ばれる社会が日常の会話のなかに出始めたのはいつ頃からか、何故なのかを、同化主義/政策を軸に、まずは把握されたい。その上で文化多元主義/多文化主義の概念を理解し、どのような道筋を経て多文化社会が構築されつつあるのかを把握する。また、構築されるについて、どのような要素が不可欠かをアメリカのさまざまな制度などに触れながら理解する。
また古くはArthur Schlesinger, Jr.、新しくはSamuel Huntingtonらによって文化多元主義の是が問われていることを認識する。
授業計画
テーマ
内容
授業を受けるにあたって
第1回目
コース・ガイダンス
 
 テキストとして指定した本の取り扱い方、参考文献の紹介やノートのとりかたなどについて話をする。 テキストに指定された本を持参すること。
第2回目
なぜ、今、多文化社会論なのか?  多文化社会という表現が使われるに至った理由を見つけるために、近年の世界の社会的・政治的・経済的状況を概観する見る。 配布するプリントを参考に予習をする。
第3回目
何をきっかけに多文化社会を意識するようになったのか?  第二次世界大戦は、世界の人びとに多文化社会という観点で何を起こすきっかけになったのかを実験国家と評されるアメリカに見る。まずは1945年以降のアメリカ。 猿谷要『物語アメリカの歴史』、池田 智・松本利秋『早わかりアメリカ』などで第二次世界大戦以降のアメリカはもとよりアメリカという国についての歴史的知識をつけておいていただきたい。
第4回目
同上  経済学者John Kenneth Galbraithによって「豊かなる社会」(Affluent Society)とレッテルが貼られた1950年代のアメリカに多文化社会を意識するようになるきっかけとなるさまざまな事件が起こったが、それは一体何だったのかを知る。 キーワードとして、レビット・タウン、ハイウェー法、郊外化、家電製品、テレビ、ディズニーランド、ブラウン裁判、モントゴメリー・バスボイコット、ビート世代、ロックンロール、エルヴィス・プレスリー、公民権運動(Civil Rights Movement)などをアメリカ史やその他、アメリカ文化史関係の本で、該当箇所を読む。
第5回目
新しい「文化」の誕生  1960年代は、50年代のビート世代の影響を受けた若者たちの台頭とブラウン裁判判決に自信を得たアフリカ系アメリカ人台頭の時代である。それまでの白人新教徒、つまりワスプ(WASP)至上主義、あるいはヨーロッパ中心主義を軸とする同化主義/政策に疑問が提示される。 カウンターカルチャー、ヒッピー文化などについて調べておく。
第6回目
同上  公民権運動から派生する女性解放運動、ゲイ解放運動などを概観し、戦後社会に新しい意味での「多文化社会」が構築されていく様子を見る。 アメリカン・インディアン運動、女性解放運動、ベティ・フリーダン、全米女性機構、などを調べてみる。簡単には『早わかりアメリカ』が参考になるが、それを元に大型の図書へ向かうことを薦める。
第7回目
同上  同上。 同上。
第8回目
同上 50年代及び60年代にかけての多文化社会が顕在化する様子をVideoを用いて検証する。 ペイパーを提出してもらう予定ですので、Videoを観るときにはメモをとること。
第9回目
同上 フェミニズム運動において大きな力となった雑誌『ミズ』を発行したGloria Steinem についてのVideoを観る予定。 同上。
第10回目
同上。 Ethnic StudiesやEthnic Festival、あるいは小・中・口頭学校におけるEthnic Weekなどについて考察する。 アメリカにおけるEthnic StudiesやEthnic Festivalなどについて調べておく。
第11回目
文化多元(多元文化)主義(Multiculturalism)への道 公民権運動やカウンターカルチャーを経て社会のリベラル化、平等化が進んだ。その結果、さまざまな意味での共存・共生という方向を探り出し始めた事実を概観する。 多文化主義について指定のテキストを読む。また『早わかりアメリカ』で1960年代にかかわる部分を読んでおくこと。
第12回目
文化多元主義 (1) 文化多元主義とは? 『多文化主義とは何か』を読む。
第13回目
文化多元主義 (2) アファーマティヴ・アクション(Affirmative Action)によって文化多元主義は促進されたが、アファーマティヴ・アクションとは一体いかなる政策なのか、を見る。 アファーマティヴ・アクションについて調べておく。ホーン・川嶋瑤子『女たちが変えるアメリカ』を読まれたい。
第14回目
文化多元主義(3) 平和の多文化社会を構築していく上で、どうしても通らなければならない壁とは……また差別を越えるためにはどのような経験をしなければならないかをVideoで確認したい。 Blue Eye and Brown Eye. ラウ裁判などについて調べておく。
第15回目
『分裂するアメリカ』(ヴィデオ)を見る 多文化社会を平和に運営することの難しさを観る。 シュレジンジャーの『分裂するアメリカ』、ハンティントンの『分断されるアメリカ』などを読まれたい。

教科書
アンドレア・センプリーニ著『多文化主義とは何か』と池田 智・松本利秋著『早わかりアメリカ』(日本実業出版社) 後者のテキストは、多民族国家を代表するアメリカの歴史と文化全般を短時間に把握していただくためのテキストと考えていただきたい。
参考文献
青木 保『多文化社会』(岩波新書 840)/ 青木 保『文化の否定性』(中央公論社)/有賀 貞編『エスニック状況の現在』(財団法人 日本国際問題研究所)/池田 智「移民をめぐる文化多元主義と他者」in『他者のロゴスとパトス』(三井善止編、玉川大学出版部)/載 エイカ『多文化主義とディアスポラ』(明石書店)/シュレジンガー, Jr. アーサー『アメリカの分裂――多文化社会についての所見』(岩波書店)/ジェームズ・バンクス『多文化教育』(サイマル出版会)/杉本良夫『オーストラリア--多文化社会の選択』(岩波新書)/--------『「日本人」をやめられますか』(朝日文庫す-9-1)/関根政美『マルチカルチュラル・オーストラリア』(成文堂)/--------『多文化主義社会の到来』(朝日選書)/多文化社会研究会編『多文化主義--アメリカ・カナダ・オーストラリア・イギリスの場合』(木鐸社)/サミュエル・ハンティントン著『分断するアメリカ』(集英社)/森 孝一編『アメリカと宗教』(財団法人 日本国際問題研究所)/ロイス・ストールヴィ著(池田 智訳)『ワスプの教育--人種・宗教・女性差別への挑戦』(明石書店)/加藤秀俊著『多文化共生のジレンマ――グローバリゼーションのなかの日本』(明石書店)/初瀬龍平(編著)『エスニシティと多文化主義』(同文館)
成績評価方法
数回のレポート30%+教室内試験70%
そのほか受講者への指示/メッセージ
 教科書だけを読んでも理解できないところが多いかと思います。したがって、参考文献に積極的に手を伸ばすように努力していただきたい。とくにアーサー・シュレシンジャー,Jr.の『アメリカの分裂――多文化社会についての所見』(岩波書店)、サミュエル・ハンティントンの『分断されるアメリカ』(集英社)は一読を薦めます。

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