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多文化社会論

科目
多文化社会論
区分
国際言語文化学科科目群
授業コード
2110061100
開設セメスター
3S4S
曜日・時限
春 水/78秋 水/78
単位数
2単位
担当者名
池田 智
授業の概要
 1980年代あたりから「多文化社会」という用語が盛んに使われてきている。「多文化」を構築する要素としての「多民族・多人種共存・共生」とは非常に聞こえがいい。人間としての優しさがあるような気がする。こうした考えを支える思想として「多文化主義」とか「文化多元主義」が主張されるようになった。これらの用語は"multiculturalism"を日本語に置き換えたものだが、前者を"multiculturalism"の訳語として、後者を"cultural pluralism"の訳語として使い分けする学者もいる。こうした用語が使われるようになった背景には「多文化共存・共生」が問われ、また顕在化するようになってからのことだ。しかし、早くはマーガレット・ミードら文化人類学者が、レイシズムや西洋文化を頂点として世界の他の文化を段階的に下位に位置づける「文化発展説などに対する批判として「文化相対主義」(cultural relativism)を提示していた。本講座では、「今、なぜ『多文化社会論』なのか?」を中心テーマとして、「多文化共存・共生」が主張されるようになった背景を探り、その支持思想としての「多文化主義/文化多元主義」が生み出すさまざまな問題を、避難所国家としてさまざまな民族・人種が共存・共生するアメリカの歴史と現状に見る。
到達目標
 「多文化社会」と一般に呼ばれる社会が日常の会話のなかに出始めたのはいつ頃から、何故なのかをまずは把握されたい。その上で文化多元主義/多文化主義の概念を理解し、どのような道筋を経て多文化社会が構築されつつあるのかを把握する。また、構築されるについて、どのような要素が不可欠かをアメリカのさまざまな制度などに触れながら理解する。人種差別など、まず日常の話題にもならなかったアメリカ中西部のアイオワ州の小さな村 Riceville の小学校教師 Jane Eliott先生が行った「モック・セグリゲイション(Mock Segregation)」のヴィデオ(『青い目 茶色い目』)には平和な多文化社会を維持する難しさが描かれている。また古くはArthur Schlesinger, Jr.、新しくはSamuel Huntingtonらによって文化多元主義の是が問われていることを認識する。
授業計画
テーマ
内容
授業を受けるにあたって
第1回目
コース・ガイダンス
 
 テキストとして指定した本の取り扱い方、参考文献の紹介やノートのとりかたなどについて話をする。
第2回目
なぜ、今、多文化社会論なのか?  多文化社会という表現が使われるに至った理由を見つけるために、近年の世界の社会的・政治的・経済的状況を概観する見る。 青木 保『多文化世界』27ページまでを読んでおく。
第3回目
何をきっかけに多文化社会を意識するようになったのか?  第二次世界大戦は世界の人びとに、多文化社会という観点で何を起こすきっかけになったのかを実験国家と評されるアメリカに見る。まずは1945年以降のアメリカ。 猿谷要『物語アメリカの歴史』、池田 智・松本利秋『早わかりアメリカ』などで第二次世界大戦以降のアメリカはもとよりアメリカという国についての歴史的知識をつけておいていただきたい。
第4回目
同上  経済学者ガルブレイスによって「豊かなる社会」とアメリカの社会にレッテルが貼られた1950年代のアメリカに多文化社会を意識するようになるきっかけとなる事件がさまざまに生じるが、それは一体何だったのかを知る。 キーワードとしてブラウン裁判、ビート世代、ロックンロール、エルヴィス・プレスリーなどを記憶に留め、書籍インデックスで該当部分を読む。
第5回目
新しい「文化」の誕生  1960年代は50年代のビート世代の影響を受けた若者たちの台頭とブラウン裁判判決に自信を得たアフリカ系アメリカ人台頭の時代である。それまでの白人新教徒、つまりワスプ(WASP)至上主義、あるいはヨーロッパ中心主義に疑問が提示される。 同上
第6回目
同上  公民権運動から派生する女性解放運動、ゲイ解放運動などを概観し、戦後社会に新しい意味での「多文化社会」が構築されていく様子を見る。 猿谷、池田、松本らの書籍、推薦図書一覧の中からの書籍で1960年代についての知識を固める。
第7回目
同上  50年代及び60年代にかけての多文化社会が顕在化する様子をVideoを用いて検証する。 50年代、60年代の主たる事件などを復習しておく。
第8回目
同上 50年代から60年代の社会の流れの変化から生み出される価値観を検証する。女性解放運動やグロリア・スタイネムらの活躍の様子をヴィデオに見る(予定)。多文化社会とは必ずしも異民族・異人種の共存によるものだけとは限らない。男性・女性、健常者・障害者、異性愛・同性愛の共存も多文化社会を構築する上で重要な要素となることを認識する。 同上
第9回目
同上 Ethnic Studies、Ethnic Revival、Ethnic Festivalなどについて考察する。 青木 保『多文化世界』pp. 101-113を読み、文化相対主義について理解しておく。
第10回目
アメリカにおける宗教の役割と多文化社会へのその意味 一見してアメリカ人として結びついた人々は結局真の意味での結びつきは、今はまだ無理、という現実に立ったとき、彼らは何を求めるのか? 信仰復興運動について調べておく。また森孝一著『宗教から読む「アメリカ」』を読むとよい。
第11回目
宗教の役割 さまざまな民族・人種によって構成されているアメリカ人を結びつけている力とは? 青木 保『多文化世界』pp. 49-83を読んでおく。
第12回目
文化多元(多元文化)主義(Multiculturalism)への道 公民権運動やカウンターカルチャーを通して社会のリベラル化、平等化が進んだ。その結果、共生という方向を探り出した。 青木 保『多文化世界』pp. 30-48を読んでおくこと。
青木 保『文化の否定性』(中央公論社)を読まれたい。
第13回目
アファーマティヴ・アクション 文化多元(多元文化)主義を結果的に促進する一つの手段として、アメリカではaffirmative actionが施行されている。これを考察する。 affirmative actionについて調べておく。
第14回目
Mock Segregation の役割 平和な多文化社会を構築していく上で、どうしても通らなければならない壁とは……
 Riceville, Iowa の小学校から始まった Blue Eye and Brown Eyeを見る。
 さまざまな意味での差別問題に関心を寄せる。
第15回目
『分裂するアメリカ』(ヴィデオ)を見る 多文化社会を平和に運営することの難しさを見る アーサー・シュレシンジャー・ジュニアの『分裂するアメリカ』を読んでいただきたい。

教科書
 青木 保『多文化社会』(岩波新書 840)の予定(版切れの場合は別に考える)。/池田 智・松本利秋著『早わかりアメリカ』(日本実業出版社)後者のテキストは、多民族国家を代表するアメリカの歴史と文化全般を短時間に把握していただくためのテキストと考えていただきたい。
参考文献
 青木 保『文化の否定性』(中央公論社)/有賀 貞編『エスニック状況の現在』(財団法人 日本国際問題研究所)/載 エイカ『多文化主義とディアスポラ』(明石書店)/シュレジンガー, Jr. アーサー『アメリカの分裂――多文化社会についての所見』(岩波書店)/ジェームズ・バンクス『多文化教育』(サイマル出版会)/杉本良夫『オーストラリア--多文化社会の選択』(岩波新書)/--------『「日本人」をやめられますか』(朝日文庫す-9-1)/関根政美『マルチカルチュラル・オーストラリア』(成文堂)/--------『多文化主義社会の到来』(朝日選書)/多文化社会研究会編『多文化主義--アメリカ・カナダ・オーストラリア・イギリスの場合』(木鐸社)/サミュエル・ハンティントン著『分断するアメリカ』(集英社)/森 孝一編『アメリカと宗教』(財団法人 日本国際問題研究所)/ロイス・ストールヴィ著(池田 智訳)『ワスプの教育--人種・宗教・女性差別への挑戦』(明石書店)/加藤秀俊著『多文化共生のジレンマ――グローバリゼーションのなかの日本』(明石書店)
成績評価方法
教室内試験70%+レポート20%+出席10%
そのほか受講者への指示/メッセージ
 教科書だけを読んでも理解できないところが多いかと思います。したがって、参考文献に積極的に手を伸ばすように努力していただきたい。とくにアーサー・シュレシンジャー,Jr.の『アメリカの分裂――多文化社会についての所見』(岩波書店)、サミュエル・ハンティントンの『分断されるアメリカ』(集英社)は一読を薦めます。

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