授業の概要 | 本講では、「知識」を複合的学問の範疇で扱っていくため、哲学的問題意識としての認識論(真理や誤謬をめぐる議論)に留まらず、社会学的な問題意識としての権力論(誰が真理を決定するのか、何を真理としているのか)からも「知識とは何か」に迫っていく。
とりわけ、権力論を軸に展開されている知識への問いは活発で、主に2つの捉え方が代表的である。そのひとつは、イデオロギー論に依拠する見方であり、知識は所有され、所有された知識が人の意識を決定する捉え方。もう他方には、記号論が代表するように、恣意的に構築された知識が実体的意識をつくり出すという捉え方がある。前者では知識を情報として考え、どのような情報が重要なのか、どのように情報が選別されるのか、選抜された情報が人々の生き方がどのように影響するのか、などを関心事とする。後者では知識とは意識と実体をつなぐ媒介として考え、媒介としての知識が人々の物の見方、感じ方、考え方、そして生き方に影響することを明らかにしようとする。このことから、知識を論じることは、「何が真理か」を単に問うことのみではなく、「誰が本当だと決めるのか」、「何を本質だと信じているのか」を問うことを含む。
こうして「誰が本当だと決めるのか」や「何を真理だと信じているのか」という問いの設定は、権力論によって可能となる。しかし、先の問いが「誰が?」と問題の主体を問うのに対し、後の問いは「わたしは」という主体を問題にする点が、両者の権力に対する立場を大きく隔てるのである。
本講では、まず知識をめぐる問題を紹介し、「知識とはなにか」をめぐる学問的立場を整理する。その上で、知識を情報と区別し、ポスト情報社会、すなわち知識社会(絶対的権力が消え、「わたし」という主体が現れる社会)について焦点をあてていく。 |