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国際社会と法

科目
国際社会と法
区分
国際経営学科科目群
授業コード
1558455583
開設セメスター
3S4S
曜日・時限
春 金/56秋 金/56
単位数
2単位
担当者名
臼杵 英一
授業の概要
 国際社会とその法との関係は、狭い意味では、条約や国際慣習法などのいわゆる「国際法」がもつ社会的機能とそのような規範(=ルール)の発見や明確化や適用の問題にほかなりません。国際社会論は、当然そのような伝統的・法学的視点からの分析も含んでいます。この講義でも、たとえば武力行使のルールや日本をめぐる領土問題に関する若干の具体的事例を通じて国際法の果たす社会的機能について議論します。国際法とは、国際政治の最前線よりは数歩さがったところで問題解決の基準や出発点などとして機能している国際社会の共存と協力のための数ある「制度」のうちの一つであることを理解してもらえたらと思っています。
しかし、「国際社会論」という視点は、さらに広い意味で、国際社会システムの「意識的・無意識的な共通・普遍的ルール」の全体、言い換えれば、法的かつ公式のルールにかぎらず、実効的な戦略的・政治経済的ルールや非公式の思想的・文化的認識の枠組と、それらを担保する「制度」の機能もしくは役割の明確化をめざすものです。「制度」とは、少し難しく言うと、一般に社会システムの中で一定の機能を果たす部分構造のことです。従来の国際関係論のように社会の全体構造を行為主体の集合とそれらの相互の作用関係のあり方とみるだけではなく、社会の構成単位(個)の欲求充足機能や社会システム(全体)の均衡維持機能をも分析の対象としています。
また、ある社会文化(A)とある社会文化(B)との関係のせめぎ合いと安定は、長期的には(私の造語ですが)「境界文化 interstitial culture」の成立や存否にかかっているように思われます。外来の宗教であれ民主主義であれ人権であれ自由であれ、あるいはグローバルな経済文化や技術的世界標準であれ、そうした外に由来する価値観や文化(A)と、従来からの内に由来する安定的かつ完結・閉鎖的(と思われている)民族の論理や思想や文化(B)との遭遇や接触や反発の過程(その中の急激なものが「グローバライゼーション」現象か?)の中では、(A)が(B)を席捲する場合もあり、(B)の反発が(A)を追い払おうとする場合もあるでしょう。さらに、厳密には(A)でも(B)でもない境界文化(X)が、そのせめぎ合いの中から自然にゆっくりと、あるいは人為的に急速に、生成することができれば、それにより(A)も(B)も変化を受けながらも存続し安定します。一例を挙げれば、ある民族(民俗)文化が、他の有力な民族文化や外来(世界?)文化に適応するために生み出したそのような「境界文化」の一つが、今日我々が当たり前のように考え、ときに誤まって本源的なものとみなしている「国民文化」ではないでしょうか。たとえば、明治維新を考えてみて下さい。
そして、このような垂直的階層レベルにおいてかつて発生しただけではなく、水平的域圏レベルでも同様のことが国民文化(A)と国民文化(B)との間に起きています。そのような境界文化として、(封建的・帝国的・植民地的)共通文化、朝貢文化、外交文化、地域統合文化などが中間文化として成立してきたと思われます。今日のグローバリズムの問題は、グローバル文化のあまりに急激かつ大量の流入に対応して、あらたな境界文化の生成がいまだ追いつかず、席捲されることへの危惧にあるのかもしれません。
詳しくは、あらかじめ下記のテキストの第三章に目を通しておいて下さい。講義では、第二部(第五章以下)の国際社会の各「制度」の議論を中心に進めます。従来の国際関係論や国際関係法は、文化や社会思想や人間の価値観についてやや単純化されすぎた見方にもとづいているのではないでしょうか。
講義の後半では、文化人類学や社会人類学の成果を参照しながら、そのような国際政治の経験的実在の深層にある無意識的な構造やルールや制度の社会的機能を、「チベット(史)」を事例とした境界文化生成の成功と失敗の再検討を通じて、具体的に考えてみたいと思います。参考のために、本講義の関連テーマを既存の学問分野で表記すれば、国際法・国際関係論・文化(社会)人類学・歴史となります。興味があったら受講してみて下さい。
到達目標
(1)主に武力行使と紛争解決に対する国際法の役割と限界を理解する。国際社会には、国際法以外にも非法律的な政治規範・社会規範・経済規範があり、それらが一定の社会的機能を果たすと同時に、さまざまな問題を生んでいることを理解する。
(2)その上で、国際社会現象を観るバランスのとれた「視点」をもって、自分の意見を論ずることができること。
授業計画
テーマ
内容
授業を受けるにあたって
第1回目
(序論) 国際関係論・国際文化論と国際社会論の学問的特徴下記教科書の「序文と「はじめに」と「序論」を読んでおいて下さい。
第2回目
(総論)社会人類学の視点 構造=機能主義、文化変容、歴史と分化教科書94-95頁、参照。
第3回目
国際社会における法と制度 システムとは何か。地球システム論、部分システムとしての法・制度
第4回目
(各論)ブル『国際社会論』、勢力均衡(1) 定義、特徴、役割、歴史教科書第5章、参照。
第5回目
勢力均衡(2) 「相互核抑止論」の定義と問題点教科書144-154頁、参照。
第6回目
国際法(1)総論 定義、特徴、役割、歴史教科書第2章、第6章、参照。
第7回目
国際法(2) 領土問題と国際法の果たす役割と限界。核兵器の保有と使用
第8回目
外交(1)総論定義、特徴、役割、歴史教科書第7章、参照。
第9回目
外交(2)第二次大戦の日米交渉、その他
第10回目
戦争(1)総論定義、特徴、役割、歴史教科書第8章、参照。
第11回目
戦争(2)テロの定義、原因論。テロへの対抗措置教科書第11章、とくに321-323頁、参照。
第12回目
大国(1)総論定義、特徴、役割、歴史教科書第9章、参照。
第13回目
大国(2)なぜ米国は嫌われるのか。米国の歴史
第14回目
(展開1)国際社会における国家とは何か。チベットの事例(秋学期の方でより詳しく講述します。)
第15回目
(展開2)WTOとグローバリズム。結論。小論文(essay)の書き方・構成法

教科書
H.ブル『国際社会論 アナーキカル・ソサイエティ』岩波書店(4,500円+税)
参考文献
エイクハースト=マランチュク『現代国際法入門』(成文堂)、第九章 領域取得:江渕一公『文化人類学』(放送大学教育振興会)、第九章 社会統制のシステム:小松久男(編)『中央ユーラシア史』(山川出版)、チベット史に関する章、参照。そのほかは講義中に指示します。
成績評価方法
学期末に筆記試験(エッセイ形式の論文試験)
そのほか受講者への指示/メッセージ

更新日:02/06/2004
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