授業の概要 | 脳は1000億という数のニューロンが複雑に結合してできた、巨大にして精巧なシステムである。これは生体の情報処理を司る最高次の器官である。脳は驚くほど柔軟な情報処理をやってのけ、人間の精神機能をこの上に実現している。脳を理解するにあたってはニューロンを構成する各部分の分子構造とその働きから、神経回路網の基本構造、その情報処理様式、認知、記憶、思考、制御の仕組み、さらには意識などの精神機能に至るまで、きわめて広範な分野が研究の対称となる。
一方、人間の営みである社会組織やコンピュータなども脳に関連している。21世紀は人間と会話のできる新しいコンピュータが要求されている。こう見てくると、これからの脳の科学は医学、生物学はもとより、情報科学、工学、認知科学、言語学、哲学など諸学の交流の上に築かれる総合科学であろう。これが来るべき“脳の世紀”に向けての脳科学の方向といえる。このなかで人間の脳の知識構造の果たす役割はますます重要度を増してくるであろう。
本講義は、脳の知識形成のメカニズムに注目し、これまでに築かれてきたいくつかの成果とその枠組みを概観するものである。 |